渡辺キョウスケが、PFメンバーから出された「縛り」にそって短編小説を執筆。
     もうギッチギチに縛られてます。

2009年12月22日

第6縛 『靴は投げられた』

何やら暗いと思ったら、蛍光灯が切れているじゃないか。

部屋の天井の、4本ある内、家を出る前は2本点いていたのに、今は1本しか点いていない棒状の蛍光灯を、ライトカバー越しに見つめながら、私はそう思った。

そろそろ買い換えなくてはとは思っていたのだが、ついに1本になってしまったか。この部屋に越してきてからかれこれ3年、それまで一回も取り替えたことが無かったので、蛍光灯って案外長持ちするもんだなぁ、などとぼんやり思っていたが、さて、どうしたものか。仕事から帰ってきたばかりなので、今からまた外に出て買いに行くのが面倒くさい。しかしながら、これまでもそう言って買いに行かず、それで今日残り一本になってしまった訳で。買いに行くべきか、行かざるべきか、それが問題だ、などと、どこかの悲劇の主人公ばりの苦悩が、私の頭に渦を巻いた。

「・・・よし」

そう言って私は、おもむろにトイレに向かい、そのドアを開け、置かれているスリッパを履いた。そして、その片方を思いっきり廊下の宙に飛ばした。くるくると回転し、放物線を描きながら廊下を飛んでいくスリッパ。それを見つめながら、私はこう思ったのだった。

「表が出たら行かなくていい、表が出たら行かなくていい・・・!」

回転するスリッパは、パコンッという軽い音をたてて天井にぶつかり、そのままフローリングにベチッと墜落した。

「・・・うわあ」

落ちたスリッパを見て私は思わずうめき声をあげた。

スリッパは見事に裏を向いていたのだった。



・・・私は、昔から常々、何かの選択に迷った際は、「靴占い」の結果に従うようにしていた。

「靴占い」・・・そう、あの子供の頃なんかに、「明日天気になあれ」とか言って靴を蹴り投げて、表が出たら「晴れ」とか、裏が出たら「雨」とか、側面だったら「曇り」とかっていう、あの「靴占い」である。

もちろん私自身、こんな事、今年で25になる成人男性がやるようなことじゃないというのは重々承知している。しかしながら、私がこの子供じみた行為を続けるのには訳があった。

というのも、事の始まりは、私が5歳の夏、父の実家に里帰りをしていた際、祖父にこの「靴占い」を教えてもらい、生まれて初めてやってみた時だった。私は祖父に教えてもらったとおり、「明日天気になあれ」と靴を飛ばした。すると、勢いが強すぎたのか、靴は思いのほか遠くに飛んで行き、祖父の家の庭を越えて、横にある畑の方まで行ってしまった。私は慌てて、ケンケンをして畑まで見に行くと、何と靴は畑につま先から突き刺さって立っていた。私は、後ろから着いて来た祖父に、「これはどういうこと?」と尋ねると、祖父は笑いながら、「こりゃあきっと、明日は雪か雹(ひょう)が降るなあ」と答えた。

そして翌日。祖父の家の中で夏休みの宿題をやっていると、突如、上から、バラバラバラッ!という音がして、次の瞬間、ガシャーンッ!と、何かが窓ガラスを割って家の中に飛び込んできた。それはゴルフボール大の氷の粒だった。驚くことに、本当に雹が降ってきたのだ。何でも、積乱雲からは夏でも稀に雹が降るということがあるらしいのだが、それからの私は、靴占いに絶対的な信頼を寄せるようになり、事ある毎に、自らの選択を靴に委ねるようになった。

もちろん、雹が降ったのは偶然だし、その後の占いも、別に確実に当たるという訳ではなかった。しかしながら、あの時の衝撃から、占いの結果に従うことにはとても大きな安心感を感じることができたし、逆に、結果に背いた行動をとる時には不安が付きまとい、恐らくその心理状況を反映してだろうか、占いの結果に従うと、物事は上手くいくことが多く、背いた行動をとれば、失敗することが多いという具合であった。



「・・・面倒くせえジンクスだよなあ」

私は、愚痴をつぶやきながら、近所にある、深夜まで営業している量販店まで歩いて向かった。店内に入ると、耳慣れた安っぽいBGMがスピーカーから流れており、私はそのBGMを口ずさみながら蛍光灯の売り場を探した。確か蛍光灯は、雑貨売り場の文具コーナーの、さらに横に置かれていたはず。私は、雑貨売り場に向かい、文具コーナーを見つけ、そして棚に陳列された商品を順々に見ていった。ノート、ファイル、色とりどりのペン、アニメキャラクターが描かれた子供向けの文房具セット・・・。

と、その時、

「雨宮クン?」

と、私の名を呼ぶ聞き覚えのある声。私は声の方を振り向いた。

「あ、やっぱり雨宮クンだ」

そこには、会社の同僚の太田陽子が立っていた。太田陽子。会社の誰もが狙っているアイドル的存在。無論その一人である私は、思わぬ対面に動揺を隠せず、

「わ!や、え?あれ?え?太田?え?あれ?何で?え?」

と、しっちゃかめっちゃかとしか言いようの無い状態になっていると、彼女は、「え?何?どうしたの?」と笑った。嗚呼、笑顔が眩しい。

「あ、いや・・・え?太田って、この辺なの?」
「うん。雨宮クンもそうなんだ?」
「え?あ、うん・・・」

私は心の中でガッツポーズをした。何とあの太田陽子が自分の近所に住んでいたとは。嗚呼、私服姿が可愛い。

「・・・え、じゃあ太田も、この店とか結構来るの?」
「うん、割と使うかな。ここ夜中までやってるから便利だよね」
「分かる分かる。オレも今日、家帰ったら蛍光灯切れててさ、それで」
「ああ、そうなんだ。私も、録画したい番組があったから、DVD−R買おうと思って」
「ああ、へー・・・」
「うん・・・」

ダメだ。会話が続かない。くそう、彼女の心をガッチリつかめる様な、そんなキャッチーな話題は無いのか。そう思えば思うほど、私は言葉に詰まっていく。

「・・・じゃあ、私」
「え?」

棚からDVD−Rを取り、帰ろうとする彼女。ああ、もうちょっと喋りたい。喋ってもっと仲良くなりたい。何か声をかけなくては。

「あ・・・じゃあ、また明日会社で」
「うん、じゃあね」

嗚呼、オレの馬鹿。帰してどうするんだ。頼む、帰らないでくれ。ていうか、近所なら一緒に帰りたい。私に背を向け、売り場から遠ざかっていく彼女。声をかけて引き止めようか。いや、ここで引き止めては気持ち悪いと思われやしまいか。声をかけるべきか、かけざるべきか、それが問題だ。苦悩が私の頭に渦巻いた。

「・・・よし」

そう言って私は、右の靴を半分脱いだ。ここはやっぱり、こいつに頼るしかないだろう。表が出たら声をかける。裏が出たら止めておく。どちらが出てもオレはお前に従うぞ。でも頼む、表が出てくれ。そう私は強く願って、靴を飛ばそうとした。その時である。

「待てー!!」

向こうの方からそう叫ぶ声が。そちらを向くと、一人の若い男がこちらに走ってきて、私の横を猛スピードでかけ抜けて行った。

「そいつはスリだー!!捕まえてくれー!!」

後から追いかける中年の太った男の客が、息も切れ切れに周りの客に向かって叫んだ。眼を凝らして見ると、逃げる男の手元には、おそらく中年客のものと思われる財布が。とっさに私はスリの男を追いかけようとしたが、靴を半分脱いでいたので走ることができなかった。

「くそおっ!」

そう叫んだ私は、靴を脱いで、それを手に持って振りかぶり、スリの男の方に向かって思いっきり投げつけた。靴はくるくると回転してとんで行き、パコーンッ!という音を立てて男の頭に見事命中した。その場に倒れるスリの男。

「・・・当たっちゃった」

まさか本当に当たるとは思っていなかった私は、周囲の客が倒れた男を一斉に取り押さている光景をボンヤリみつめていた。と、後ろから、

「雨宮クン!!」

と、太田陽子がこちらに走ってやってきた。

「大丈夫!?ケガとかしてない!?」
「あ、いや、オレは別に・・・あ、そうだ、靴」

私は彼女に肩を借り、ケンケンで靴を取りに行った。

すると靴は、スリの男が倒れたときに一緒に倒した商品の山に、つま先から突き刺さって立っていた。

「・・・刺さってるね、雨宮クンの靴」
「これは・・・プロポーズでもしろってことか?」
「え?」
「あ、いや、何でもない・・・」

私は、彼女とボンヤリその光景を眺めながら、もう少しの間彼女の肩を借りていようと思った。











お久しぶりです。いやあ、長いGWでした。

ロマンチックなラブストーリーにしようと思ったら、主人公の男が何か気持ち悪いヤツになっちゃいました。これアレですかね、僕が気持ち悪いからですかね。誰がだよ。


では、次回の縛りはコチラ。

題名が『インスタントミュージック』(又吉)

「ついにパソコンも壊れた」という書き出し文で始める(神長)

「ソフトドリンク」を文中に入れる(拓司)

今回から、文中に入れる単語の縛り担当を、昆と拓司の交互で行きたいと思います。

次回更新は、次の公演(vol.8)が始まる頃に。多分その頃になったら、今回みたいに又吉クンにせっつかれると思うんで。


それではまた次回。
posted by 渡辺 at 17:45| 縛文 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2009年04月12日

第5縛 『ファイナルファンタジー』

マジか。マジなのか。

ベッドの上の目覚めたばかりの私は、周囲の状況を見て愕然となった。

というのも、周囲に並べて置かれているベッドのどれにも、そこに寝ていたはず私の「仲間」が誰一人いなかったからだ。

「起きたのかい」

その声に振り向くと、そこにはこの「宿」の管理人である、私たちが「おばさん」と呼んでいる初老の太った女性が立っていた。

「他の皆は?」

私は、返ってくるであろう最悪の答えを予想しながらも恐る恐るおばさんに問いかけた。

「見りゃ分かんだろ。今の今まで寝てたのはアンタだけだよ」

聞きなれたいつも無愛想なトーンでおばさんにそう告げられた私はその瞬間、事態をはっきりと認識した。

「・・・寝坊したぁ!!」

私は間抜けな叫び声を上げ、そしてベッドから飛び降りると、慌てて階段を駆け降りて1階に行き、そして、そこに2階のベッドと同じように、仲間のものと一緒に並べて置かれている自分のロッカーを開け、そこから真っ赤な色をした「作業着」を取り出した。

「何で起こしてくれなかったんだよ!」

作業着に袖を通しながら、私は2階にいるおばさんに聞こえるよう声を荒げて文句を言った。

「気持ち良さそうに寝てる人間起こしちゃ悪いと思ってね」

階段を降りながら無感情におばさんはそう答える。私はそれを聞いて信じられないと思った。他の仲間が起きて「仕事」に出かけていて、それで一人だけまだ寝ている奴がいたら、普通ソイツのことを起こしてやるものだろう。何て意地の悪いおばさんなんだろう。

でも今更おばさんに文句を言っても仕方が無いし、確かに寝坊したのは自分のせいだ。なので私はおばさんに対する怒りをグッと耐え、それ以上何も言わなかった。

作業着を着終え、そして作業着と同じ真紅の「帽子」を被り、準備が出来た私は、急いで仕事に出かけようとした。その時、

「どこ行く気だい?」

背後から、おばさんが私に相変わらず無感情に問いかける。

「どこって・・・そんなの仕事に決まってんだろ!」

「・・・無駄だよ」

おばさんは私にそう言い捨てた。今更行っても遅いとでも言いたいのか。おばさんの皮肉に私は堪忍袋の尾が切れてしまいそうだったが、相手にするだけ時間のロスだと思い、無視して宿の玄関の戸を開けた。

そこに広がる光景を見て、私は言葉を失った。

そこには、桜が満開に咲き乱れ、風に吹かれて桜吹雪が舞い散っていた。


「・・・おばさん」

私は口をパクパクさせながら宿の中のおばさんの方を振り返った。

「何だい」

「あのさ、今って・・・いつ?」

「おかしなことを聞くね。今は今に決まってるだろ」

「いや、そういうことじゃなくてさ・・・日時的なことで」

「ああ・・・」

おばさんは壁にかけられたカレンダーを確認し、答える。

「4月12日だね」

「じゃあ・・・クリスマスって?」

「終わったよ、とっくにね」


それを聞き、私はまだ夢をみているような気分だった。それもとんでもない悪夢を。

私は12月24日のクリスマス・イヴから25日のクリスマスにかけての深夜に起きて仕事に出かけるはずだった。

それが、年をまたいで、4月に目を覚ましてしまったのだ。


私が状況が読み込めず混乱していると、おばさんがふいにこう告げた。

「・・・アンタはね、もう「配達」に行かなくてもいいんだよ」

「・・・え?」

「アンタらは、もう「いないこと」になりつつあるんだ」

「・・・どういうこと?」

おばさんの言っていることの意味が分からない私に、おばさんはこう続ける。

「アンタらは、人々の想像の中で生きている。だから、人々がアンタらをいるって信じている限り、そうやって存在することができた・・・でもね、最近、アンタらの存在を信じる人間が減ってきているんだ」


嫌な予感がした。

私は急いで2階の寝室に戻った。
そこには先程と変わらず誰もいないベッドが並んでいる。

私の後を追い2階に上がってきたおばさんに、私は詰め寄った。

「ねえ、おばさん、他の皆は?今4月だったらさ、もうとっくに仕事終わって、で、また次のクリスマスまでココで寝てるはずでしょ?ねえ、どこいったんだよ?ねえ!?」

「・・・もういないよ」

おばさんは、暗い表情をしながら言った。

「他の連中は、消えつつある自分たちの存在を消さないために、一番若いアンタ一人に自分たちの存在を「統一」したんだ。だから、今はもうアンタしかいない」

「そんな・・・」

私は誰もいないベッドの前にへたり込んだ。どうしようもない絶望感と、何も知らず眠りこけていた自分に対する悔しさが全身を包み、頬を涙が伝った。

すると私の肩に、おばさんが後ろからそっと手を置いた。

「アンタも今の今まで目が覚めなかったんだ。その位アンタの存在もすでに消耗してきているってことなんだろうね・・・だから、後はもうここでゆっくり休みな。アンタらは今まで十分過ぎるくらい働いてきたんだからさ」

「おばさん・・・」

無愛想で皮肉屋だとずっと思っていたおばさんに、これほど優しい言葉をかけられたのは初めてだった。いや、違う。このおばさんは、ずっと私たちを見守り続け、そしていつでも仕事から帰ってくる私たちを迎えてくれる存在であり続けてくれたのだ。私は、そんなおばさんの優しさに、たった今気付いたのだった。

「おばさん、ありがとう・・・でも」

「え・・・?」

「ゴメンナサイ」

と、私はスクッと立ち上がり、そして再び1階に降り玄関に向かった。

宿を出ようとする私を、おばさんは慌てて引き止める。

「アンタ、まさか「配達」に行く気じゃないだろうね!?今の体で行ったら、アンタ間違いなく途中で力を使い果たして消えちまうよ!?それでもいいのかい!?」

「かまわないさ。だって僕らは、そのために存在してきたんだから」

戸を開けると、春風が宿の中に吹き、桜の花びらが舞い込んだ。

「行ってきます」


庭には、主人達を待ちくたびれ、春の陽気に眠るトナカイたちがいる。

私は自分のトナカイの腹を軽くトントンと叩いて起こす。眠りを妨げられた彼は、うっとうしそうな顔をし、そして、主人である私の顔を見て、「ようやくか」という感じでゆっくり立ち上がる。

そして私はトナカイの後ろに繋がれたソリに乗り込む。ソリには「配達物」を入れた大きな袋がすでに積んである。私はそれを確認し、そして大きく深呼吸をして、トナカイにムチを入れる。

「行っけえええええ!!」

トナカイはソリを引いて走り出す。徐々に加速がついてくると、ソリはゆっくり地面を離れ、空へと向かっていく。桜吹雪が舞い上がる中を駆けながら、私は己の存在が徐々に消え行くのを感じた。空に昇りきった時、私は残されたありったけの力で「配達物」の入った袋を思いっきり放り投げた。袋の口は開き、中のキレイにラッピングされた「配達物」たちは空中にぶち撒けられる。薄れゆく意識の中、クルクルと回りながら街に降り注いでいく「配達物」を見つめながら、私は、それを待っている子供たちにきっと届くよう、届け、届け、と何度も願った。

だって私は、この世に残された最後のファンタジーなのだから。











・・・「クリスマスに更新する」と予告して早4ヶ月ですか。だから、今回のこの話の内容のように、この物語自体が、まさに僕にとっての、力いっぱい放り投げたクリスマスプレゼントっていう、あの、アレですか。謝った方がいいですか。ハイ、本当にスイマセンでした。


では、次回の縛りはコチラ。

題名が『靴は投げられた』(又吉)

「何やら暗いと思ったら、蛍光灯が切れているじゃないか」という書き出し文で始める(神長)

「文房具セット」を文中に入れる(昆)

縛りを出してもらったのが12月だったんで、題名のネタがだいぶ前の話になっちゃってますね。又吉くん、スベった感じにしちゃってゴメンね。

そういえば、拓司に縛りを聞くのを忘れてました。うーん、どういう感じにしよう。ていうか縛り増えんのか?うわー、キツイよー。現時点ですでにキツイのに。

次回更新目標はGW・・・の終わりくらいで。おい、誰だ今「トガシ」って言ったの。

それではまた次回。
posted by 渡辺 at 02:08| 縛文 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2008年12月03日

第4縛 『4人目』

やっぱり行くんじゃなかった。

大学時代、所属していた演劇サークルの先輩の劇団「プロフェッショナル・フェイスロック」の旗揚げ公演『ファンタジー・SF・ギャグ』を観に来た僕は、まだ開演もしていないのに、既に来たことを後悔していた。

というのも、開演5分前だというのに、客席には、僕一人しか座っていなかったからである。

オイオイ、コレじゃ公演にならないだろ。そう思った僕は、出入口に立っている受付スタッフのワタベ先輩に、

「あの、これって…公演中止ですよね?」

と、聞いてみた。するとワタベ先輩は、

「え?何で?できるでしょ」

と、全く焦る様子もなく、平然と答えた。

「イヤイヤ、だって観客オレ一人って、ありえないでしょ」
「いや、でも、旗揚げ公演なんて、どこもこんなモンだし」

そんな訳無い。いくら旗揚げ公演だからって、観客一人の公演だなんて聞いたことが無い。出演者の身内とか友人とかが、もう数人はいたりするんじゃないのか。

と、ここで僕は、ある事に気が付いた。

「そういや、“カゼタニ”の人らって他に来てないんスか?」

「カゼタニ」というのは、僕らが大学時代に所属していた演劇サークル「演劇集団『風の谷』」の略称である。そうだ、他のカゼタニの人間はどうしたんだ。昔の仲間が劇団を旗揚げをしたと言うんだから、観に来てやるのが義理というものなんじゃないのか。

「いや、それが何か、みんな仕事みたいで来れないみたいなんだよ」

いやいやいや、絶対嘘だ。プロフェッショナル・フェイスロック(長いので、以降PFと省略する)を旗揚げしたメンバーがカゼタニ在籍中、一緒に芝居を作った人間は上下合わせて40人はいるはずだ。それで僕以外が全員仕事で来られないなんて有り得ない。というか、僕だって今日は仕事を休んで来ているのに。きっと僕が観に行くという噂を誰かが聞き付けて、「アイツが行くなら他は行かなくてもよくね?」と他のみんなが口裏を合わせたに違いない。僕は、自分が人柱にされたことに気付き、無性に腹が立ってきた。

でも、みんながこのPFの芝居を観に行きたくない気持ちは何となく分かった。みんな、いい加減芝居から離れたいのだ。芝居というのは恐ろしいもので、一度足を踏み入れてしまうとなかなか抜け出せない。おそらく、集団で一つの公演を作る毎に感じる、学園祭の前夜のような、刹那的な祝祭感に中毒性があるのだろう。だからPFの人たちの様に、卒業後もその感じが忘れられなくて、ズルズルと芝居を続けてしまう人間が出てきたりする。しかし、誰もが分かっている通り、芝居で食っていくのは本当に難しい。だからこそ、卒業も就職もして、頑張ってようやく芝居から離れたのに、わざわざ自分から芝居に近づくようなことはしたくないのだ。それなのに今回観に来てしまった僕は、やはりどこかに芝居に対して未練があったのだろう。

しかしながら、今日のこの光景を見て、そんな気持ちもどこかに吹き飛んだ。やはり芝居をやっていくというのはここまで難しいことなのだ。ふんぎりの付いた僕は、芝居を観ずに帰ろうと思い、

「スミマセン、オレ、さっき会社からメールがあって、ちょっと急に帰らなくちゃいけなくなりまして…」

などと適当な嘘をついて劇場を出ようとすると、ワタベ先輩が、

「あ、そろそろ開演だから」

と、さえぎる様に言い放ち、強引に扉を閉め、扉の外からはガチャッという施錠の音が聞こえた。

「え!?ちょっと!先輩!ワタベ先輩!」

そんな僕の呼びかけを無視して、劇場内の客電は徐々にフェードアウトしていく。仕方無しに慌てて客席に着くと、完全暗転しきった舞台の中央にパッとスポットがついた。そこには、PFの座長であるマタヨリ先輩が、背中にマント、右手には剣というRPGゲームの勇者の様な格好をして立っていた。そしてマタヨリ先輩はおもむろに、

「ファンタジー!」

と叫んだ。すると、舞台の上手と下手にもスポットが点き、上手には銀河鉄道999のメーテルのコスプレをして、右腕がコブラのようにサイコガンになっているカミナダ先輩が、下手にはカトちゃんのようなハゲヅラ眼鏡にステテコ姿をした同期のカンが、それぞれ立っていた。カミナダ先輩は、マタヨリ先輩に続くように、

「サイエンス・フィクション!」

と叫ぶと、さらにそれに続くようにカンが、

「ギャグ!」

と叫び、そしてそれをキッカケに、色とりどりの照明が点滅し、チープな打ち込み音楽がピコピコと鳴り始め、それに乗せて、おそらく練習したのではあろうが、全くその成果が見えてこない殺陣をやり始めた。これはヒドイ。僕は観ながらそう思った。そんな殺陣をしながら、マタヨリ先輩は、

「伝説の剣よ!力を貸してくれ!」
「クリスタルの魔力が弱まっている!」

といった、ファンタジーっぽいセリフを連発し、カミナダ先輩は、

「機械の私に、感情など…!」
「0と1の狭間に見えるビジョン…これが未来なの!?」

と、SFっぽいセリフを、そしてカンは、織田雄二や福山雅治のモノマネをするモノマネ芸人のモノマネをひたすら繰り出した。これは一体、自分は何を観せられているのだろうか。おそらく、ファンタジー、SF、ギャグという3つの要素が戦っていて、それによって、その客ウケの良さそうな3要素を一度に観せようとしているのだろう、というのは分かるのだが、完全にただの要素の羅列になっていて、全く面白がることができない。つまらな過ぎる。観る前から入場料3000円は高いと思っていたが、これは3000円以下どころか、1000円以下、いや、むしろこっちがもらいたい位のヒドさだ。誰か助けてくれ。その後僕は、この地獄のような光景を、なんと10分もの間見せ続けられた。僕にはこれが何かの拷問のように思えた。僕が観るのに疲れ果ててグッタリしていると、ふいに音楽が変わり、今度は3人が、体のキレも無く、全く揃っていない、ボンヤリした振り付けのダンスを、上手くも何ともない歌を歌いながら踊り始めたではないか。うわあ、もう勘弁してくれ。苦痛を感じているこちらの心情など知らんと言わんばかりに、3人はキラキラとした、とてもイイ顔で歌い踊っていた。それはとても薄気味が悪く、まるで悪夢を観ているかのようだった。その悪夢の渦に巻き込まれるかの様に、僕は、自分の意識が段々と遠のいていくのが分かった…。





…気が付くと、芝居は終わっていた。

どうやら僕はそのまま眠ってしまったようだった。仕方が無い。アレは最後まで観続けるにはとても耐え難い作品だった。しかし、これでようやく地獄のような時間から解放された。僕は席から立ち上がろうとした。

すると、何故か体が全く席から動かない。

僕はそこで、自分の体が席に縄で縛り付けられていることに気付いた。

「目が覚めたようだな、コバシ」

と、自分の名を呼ぶ声の方を向くと、そこには舞台上の衣装から、ジャージに着替えたPFメンバーの3人が立っていた。

「お前は合格だ、コバシ」

と、マタヨリ先輩は続けて言った。僕は、先輩の言葉の意味が全く分からなかった。すると、今度はカミナダ先輩が、

「ようこそ、プロフェッショナル・フェイスロックへ」

と言うではないか。PFに合格?一体どういうことなんだ??混乱する僕の表情を見て、カンが説明を始めた。

「いいかコバシ。さっきの芝居はテストだったんだ。お前がこのプロフェッショナル・フェイスロックにふさわしい人間かどうかのな。さっきの芝居は、オレ達が“最も観せるべきではない”と考える芝居だ。それを観せられてお前が耐えられるかどうか、オレ達はそれをテストした。そしてお前は耐えられず、途中で寝てしまった。だからコバシ、お前は合格だよ」

「ちょ、ちょっと待って!」僕は話を止めた。「さっきから合格とかって勝手に言ってるけど、オレの意思はどうなんスか!?オレまだ入りたいだなんて一言も言ってませんよ!?」

「それについてはお前の中で既に答えが出てるんじゃないのか?」

とマタヨリ先輩。僕は「え?」と思わず聞き返す。

「お前自身、まだ芝居をやることに未練があるんじゃないのか?だから今日お前は3000円も払ってこの劇場にオレたちの芝居を観に来たんだろ?」

「う…」そう言われて、僕は何も言い返せなかった。

「決まりだな」マタヨリ先輩は言った。「これでお前は4人目のプロフェッショナル・フェイスロックメンバーだ」

「…え?」僕は疑問に思った。「『4』人目?『5』人目じゃないんですか?ワタベ先輩は?」

すると、マタヨリ先輩は、無言で客席後方の調光室を指差した。

そこには、「コバシすまん。オレは代わりに抜ける ワタベ」と書かれた貼り紙が。

そこで僕は、再び人柱にされたことに気付いた。











更新が予告より一ヶ月以上も遅れてしまいました…ご覧になられてる方々、大変申し訳ありませんです。

今回は、プロフェッショナルファウルに新メンバー・小林拓司が加入するということで、又吉クンから『4人目』という題が提出されたので、内容もこんな感じにしてみたのですが、この物語はフィクションであり、実際の団体名・人物とは一切関係ありません。やってませんよ、こんな入団テスト。芝居のタイトル『ファンタジー・SF・ギャグ』は、打ち込み系宅録一人ユニット・大正九年の曲のタイトルから拝借しました。そちらはとてもいい曲です。


では、次回の縛りはコチラ。

題名が『ファイナルファンタジー』(又吉)

「マジか。マジなのか。」という文で書き始める(神長)

「悪いおばさん」を文中に入れる(昆)


次回の題名が…。僕はYが好きです。

次回はクリスマス頃に更新できれば…いいなぁ。それではまた次回。
posted by 渡辺 at 00:33| 縛文 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2008年10月13日

第3縛 『ピエロ・ナイト』

すべては父の遺言から始まった。

「お前には、トリックスターの血が流れている」

その言葉を残して父はこの世を去った。オレには何のことなのかサッパリ分からなかった。オレは泣く母に父の言葉の意味を尋ねた。すると母は黙って、手のひらにおさまる程度の小さな箱を懐から取り出し、オレに手渡した。開けてみなさい、と母が言うので開けると、その箱の中には、赤い色をした、小さな球体が入っていた。オレはそれを箱から取り出し、手にとって見てみると、球の3分の1程にポッカリと穴が空いていることに気付いた。その穴を眺めていると、母はオレに、つけてみなさい、と言った。オレは意味が分からず、ハ?と聞き返すと、母は、つけてみなさい、と繰り返し、その後に、鼻に、と付け足した。オレは何故?と思いながらも、母に言われるがままに、その赤い球に空いた穴に、自分の鼻をスポッとはめ込んだ。すると母は、おそらくピエロの様な赤鼻の様相になったオレの顔を見て、急に泣き崩れた。何事かと驚いたオレは、どうしたんだと母に問うと、母は、それまで隠されていたオレの出生の秘密を話し始めた。

オレは、死んだ父の本当の子供ではなかった。オレの本当の父親は、とあるサーカス団でピエロをしていた男だった。彼は、百年に一度の才能だと言われる程の天才ピエロだった。玉乗り、ジャグリング、空中ブランコ、ナイフ投げ、猛獣の扱いといった芸当を、まるで呼吸をするかのようにこなすことが出来た。しかし、彼が天才と言われる理由はそれだけでは無かった。彼はそれらを、いつも完璧なタイミングで「失敗すること」ができた。もちろんそれはワザとであったが、彼は決してそれをワザとらしく見せることは無く、傍からは、さも彼が芸が成功したことに調子に乗って失敗した様に見え、観客は、彼のその滑稽さにいつも手を叩いて爆笑した。彼は、観客が自分に何を求めているかを完全に理解していた。他の団員たちは、そんな彼に敬意を表し、「道化的存在」という意味のその言葉に、このサーカス団の「スター」であるという意味をひっかけて、彼を「トリックスター」と呼ぶようになった。

そんな中、当時、彼のアシスタントをつとめていた母は、いつもステージ横で彼を見ていて、いつしか彼に恋をし、そして二人は結ばれ、二人の間には、一人の男の子が誕生した。母は、その生まれた子供が、他の子供からバカにされることを危惧し、彼にピエロを辞めてほしいと頼んだ。ピエロという自分の職業に誇りを持っていた彼は怒り、その願いを聞き入れようとはしなかった。そこで母は、サーカス団の団長に頼み込み、彼が空中ブランコにちょっとした細工をした。それは、彼がそれにぶら下がった瞬間、ひもが切れるというもので、そのまま彼は、下の保護ネットに落ちるという算段であった。そうすれば、ピエロとして絶対的に自信のある彼は、その自分の意図していなかった失敗に絶望し、ピエロをきっと辞めるだろう。そう母は考えたのである。そして本番、母の計画通り、空中ブランコのひもは彼がぶら下がった瞬間プツッと切れた。しかしその後、予期せぬ事態が発生した。落下地点が保護ネットのある位置より若干ズレたのだ。彼はそのまま地面に叩きつけられた。あまりの突然の事態にサーカスのテント内は静まりかえった。すると、何と彼は、ゆっくりと立ち上がり、そして「失敗しちゃった」と言わんばかりに舌を出して気まずそうに笑ったのだ。緊張の糸が解け、一気にテント内は笑いに包まれた。彼は四方の客席に一通り礼をし、ヨロヨロと、時々つまづいて転びながら楽屋に帰っていった。客席からは、彼が転ぶ度に笑いが起こった。彼の身を案じて、母と団長が慌てて楽屋に駆け込むと、そこでは彼が床に倒れ込んでいた。息はすでにしていなかった。彼は、最後までピエロであることを貫き通し、そしてピエロとして死んでいったのだった。

母と団長は、自分たちが彼を殺してしまったと、その罪の意識に悩み、サーカス団をたたんで、彼のことを秘密にしながら子供を育ててきた。その子供がオレであり、そしてその団長が、さっき息を引き取った父だったのだ。母は、その赤鼻は、本当の父親である彼の形見の品だと言い、そして全てを話し終えた後、許しておくれと号泣した。オレには、自分を愛してくれるが故にその行動に及んだ母を、そして、今日まで本当の息子の様に自分を育ててくれた父を恨む気持ちなど全く生まれてこなかった。ありがとう、話してくれて。そう言ってオレは母の肩を抱き、そしてオレは、話を聞いたことで生まれた「別の感情」を母に伝えた。

「オレも、トリックスターになりたい」と。

それは、本当の父に対する「憧れ」という感情だった。

こうしてオレはトリックスターになるために、次の日から「ピエロ専門」の学校に通うことになった。父の形見である赤鼻を付け、母からもらった地図を見ながらその学校のある場所に向かうと、そこには巨大なテントが一つ建っていた。その入り口には「私立道化専門高等学校」と書かれていた。どうやらこれが校舎らしかった。

校舎とは思えない怪しげなそれに入ることがためらわれていると、どこからともなくグルオオオオオ!!と、獣の咆哮が聞こえた。驚いてそちらを向くと、そこには何十匹もの虎やライオン、象などの猛獣・巨獣にまたがった、ケバケバしい格好のピエロたちがこちらに向かっていた。そして、滑稽というよりも、どちらかと言えば凶悪に見えるメイクをしたピエロの一人がオレに、

「テメエがこの道高(ドーコー)に編入してきたっつーピエロかコラァ!?」

とタンカを切ってきた。ヤバイ。編入早々、不良ピエロに絡まれた。オレは恐怖におののき、エ、アノ、ソノ、などとドモっていると、そのピエロたちの中でもリーダー格だと思われる、巨大なライオンにまたがった、これまたデップリとした巨体のモヒカンヘアーのピエロが喋り始めた。

「オレはこの道高一のピエロ、『猛獣使いのチャーリー』だ。オイ、新入り。早速だがお前、何か芸やってみろや。ここでは新入りはまず、オレ様にアイサツ代わりに芸を披露する慣わしになってんだ。つまんなかったら、オレ様のカワイイ相棒、カメヤマがテメエの右腕を今日のランチにしちまうぜ」

そう言うと、そのチャーリーと名乗るピエロはグヘヘと笑い、カメヤマと呼ばれたその朴訥とした名前に似合わない獰猛そうなライオンは、オレを見て舌なめずりをした。冗談じゃない。これまで普通の高校生として暮らしてきたオレに、ピエロを満足させる芸などできる訳がない。オレはその場から一目散に逃げ出した。

「ハッ!オレ様から逃げられると思ってんのかよ!追えカメヤマ!」

チャーリーを乗せたまま、カメヤマはオレに飛び掛ってきた。ダメだ、食われる。そう思った刹那、オレとカメヤマの間に、シュバババッと、数十本のナイフがどこからか降り注ぎ、そしてそれがタタタッと地面に正確に列を成して突き立った。そして、カメヤマの自慢のたてがみの一部がハラリと落ちた。驚きを隠せないオレとカメヤマ。

「あいかわらず弱いモノいじめか?動物王国のチャーリーさんよ」

その声のする方を向くと、そこにはピエロたちが電線の上にズラッと立ち並び、お手玉をするかのようにナイフをクルクルと投げ回していた。その中のリーダー格と思われる、死神を連想させる容貌の、やせぎすったピエロがチャーリーに話しかけた。

「この、『軽業のピエール』を差し置いて、道高一を名乗るたぁ聞き捨てならねえな…オイ新入り!」

と、この隙に逃げようとしていたオレに、ピエールというそのピエロはナイフを投げつけてきた。オレの足元に刺さるナイフ。「ヒッ!?」という情けない声をオレは思わずあげた。

「よく覚えときな!道高一のピエロはこのオレ、ピエール様だってな!」

「ちょっと待て!」と叫ぶチャーリー。「テメェが一番だと?ふざけんなよこのヤセ雀が!どうやら今日こそテメェと決着つけなきゃいけねぇみてぇだな…!」

「ククク…」と不気味に笑うピエール。「いいだろう、望むところだ…」

そして、二人は同時に叫んだ。

「決闘だ!!」

その瞬間、互いのピエロ軍団が一斉に相手側に飛び掛った。飛び交うナイフと猛獣たち。互いの実力は互角で、一人、また一人とピエロ達が倒れていき、オレはその中を、ただただ逃げ惑うしかなかった。

そして、それからどれくらいたっただろうか。チャーリーとピエールが、互いの拳を相手の顔面に入れ合い、相打ちで地面に倒れた時、校庭に立っているピエロは一人もいなくなっていた。

ただ一人、オレを除いては。

「なるほど、漁夫の利を狙うとはな…なかなかのピエロだぜ…」とピエール。

「テメェ、一体何もんだ…?」とチャーリー。

オレは二人に、こう答えた。

「オレは、トリックスターになる男だ」と。





…そこで目が覚めた。



何だ、この夢は。



時計を見ると、時刻は午前二時を指している。

ああ、明日も学校だ、早く寝なくては。そう思って、夢のせいでかいた寝汗を拭おうとした時である。



鼻に、何か違和感が。


触ってみると、球体のようなものが上にかぶさっている。



と、部屋のドアの方から気配が。


見ると、その隙間から、こちらを覗く父と母が見えた。











公演終わるくらいに更新って言ってたのに、終わって一週間経っちゃいました。遅くなってスミマセン。公演参加してないんですけどね僕。

今回はわりとエンターテインメントにできたんじゃないかと思ってます。夢オチですけど。もっと色んなピエロ出したかったです。猛獣使いと曲芸師ってまんま『ONE PIECE』のバギー海賊団のモージとカバジですね。「トリックスター」に憧れるっていうのは、ジョジョ5部の「ギャングスター」に憧れるっていうのを意識しました。そういやちょっとこの話ジャンプっぽいかも。そうでもないですか。そうでもないですね。


では、次回の縛りはコチラ。

題名が『4人目』(又吉)

「やっぱり行くんじゃなかった」という文で書き始める(神長)

「3000円以下」を文中に入れる(昆)

次は月末位に更新予定です。頑張ります。それでは次回。
posted by 渡辺 at 05:42| 縛文 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2008年09月18日

第2縛 『マスターピース』

その猫は、ニヤニヤしながら私にこう言った。

「だってお前、響子に惚れてんだろ?」

私はその問いには答えず、黙々と目の前のアップライトピアノの調律作業を続ける。

響子とは、このピアノの所有者である女性の名で、この猫の飼い主だ。彼女は、自宅のこの部屋で、近所の子供たちを相手にピアノ教室を開いているのだが、祖母からゆずり受けた物だという年代物のこのピアノは、度々調律がズレる為、ピアノの調律師である私は、その都度彼女に呼ばれ、そして今日もまた、こうして調律作業を行っている。

「なぁ、好きなんだろって。なぁ」

猫はしつこく絡んでくるが、私は相手にしない。コイツには私の相談に乗る気など更々無く、ただ面白がっているだけなのだろうということは、コイツのニヤニヤから十分に読み取れた。猫っていうのは元来、そういう自分本位の身勝手な動物なのだ。私は無視して、チューニングハンマーと呼ばれる専用のレンチで、ピアノ内部の弦が巻き付けてあるピンを回していく。私と猫しかいないこの部屋には、キリキリキリ…と、弦が張りつめられていく音が響く。

「だったら何迷ってんだよ。迷ってないで男らしくさぁ」

無視だ無視。相手にしたら負けだ。

「男らしくヤっちゃえよ」
「ヤっちゃうのかよ!?」

ああ、負けた。思わずツッコんでしまった。

「当たり前だろ。オスとメスがいて他に何するんだよ。悠長なこと言ってると、オレみたいに去勢されちまうぞ」
「誰にだよ…」

ああ、またである。結局私はコイツのペースに乗せられて会話をしてしまっている。

「オレたち人間はそういう訳にはいかないんだよ。お前らケダモノと一緒にするな。少し黙ってろ。調律の邪魔だ」

そう言って私は、猫との会話を何とか断ち切ろうと、ピアノの鍵盤の一つを右手の人差し指で何度か叩き、その音を確認しようとする。ピアノからは、A、つまりラの音がポーン、ポーンと、私たちの会話に割り込むように鳴る。しかし、それにかまわず猫は、

「ちゃんと答えられないってことが、もう全てを語ってるんだよなぁ」

と、何でこんなに人をイラつかせられるんだというような口調で話す。しかしそれは、猫の言っていることが、図星だったからということもあった。

私は彼女に恋をしていた。その理由は、恥ずかしながら、彼女に自分の母親の面影を感じたからであった。私の母も彼女と同じくピアノ教室の講師をしていた。私の幼い頃の記憶の中では、母はいつもピアノを弾いていた。母の奏でるピアノからは、情緒豊かなメロディが流れ出し、私には自分の母が、もしかしたら魔法使いなのではないかなどと思えたりした。私はそんな母を尊敬していた。そして、自分もそんな魔法使いになりたいと思った私は、母にピアノを教えて欲しいと頼んだ。母は自分の息子がピアノに興味を持ったことがとても嬉しかったようだった。母は私に優しくピアノを教えてくれた。しかしながら、私には全くと言っていい程ピアノの才能が無かった。いくら教えてもらっても上達しない自分に自分で腹が立った私は、段々ピアノを弾くのが嫌になっていき、そのうちピアノを弾かなくなった。母はそんな私に何も言わなかったが、やはりどこか残念そうな感じであった。

母が死んだのは、それから少ししてからのことだ。交通事故だった。私には、母を突然失った悲しさももちろんあったが、それ以上に、尊敬していた母を裏切ったままであったことが非常に悔やまれた。そんな気持ちから私は、ピアノの才能が無くても、何かしらピアノに関わっていたいと思い、ピアノ調律師の道を選んだ。そうしてピアノを調律する日々を過ごしていたある日、私は彼女に出会った。初めてこの家を訪れた時、彼女はピアノを弾いていた。その姿は、かつての日の母に瓜二つで、私は一瞬、タイムスリップしたかのような錯覚に陥った。驚きで言葉を失っていた私に彼女は、ネ、ちょっと音がズレてるんです、と言った。私が、エ、ア、エエト、などとドモってキチンと返答できないでいると、その様子を見て彼女は、大丈夫ですか?と笑った。その笑顔は、ピアノを教えてくれる時の母の笑顔と同じ優しさをたたえていた。それから何度か調律に訪れるうちに、私は彼女と日常的な会話を交わすようになっていった。彼女は普段から子供を相手にしている為か、とても明るく気さくな女性で、私は自然に楽しく会話をすることができた。そして私は彼女にどんどん惹かれていき、今では調律に訪れるのが楽しみになっているのだった。

「何でそんなに好きなのに、どうしようともしないのかねぇ」

猫は私の心を見透かしてるかの様にそう言う。

「…どうしていいか分からないんだよ」

私は思わず猫に自分の気持ちを吐露してしまっていた。私は彼女に対して、自分の想いをどう伝えるか、というか、伝えるべきなのか、ということに迷いがあった。というのも、彼女を好きになった理由が、母に似ていたからだということに、私はどこか後ろめたさの様なものがあった。私は彼女自身が好きなのではなく、母の面影を追いかけているだけなのではないか。そう考えると、どうしても彼女に告白することができないでいた。

そんな陰鬱な気分をどこかにやろうとしてか、無意識に私はピアノで曲を弾いていた。その曲は『猫ふんじゃった』だった。

「うわ、出たよ」

猫は苦々しい顔をして言う。

「何ですぐ人は、ピアノの前に立つと『猫ふんじゃった』を弾くのかね。ここに来るガキたちもみんな弾くんだよそれ。何がいいんだよそんな残酷な曲。楽しげなメロディなのがなお腹立つ」

猫にすればもっともな話である。私は少しざまあみろと思いながら、笑って猫に言う。

「単純に弾きやすい曲だからだろ。それにこの曲、黒鍵を多用するから、弾いてて何となく自分が上手いような気分になるし」

だから私はこの曲が好きだった。当時全くピアノが上達しなかった私に、母はこの曲を教えてくれた。覚えて弾けるようになった私は、自分も魔法使いになれたような、そんな気分になって嬉しくなり、この曲ばかりを弾いていた。なので今でも、今日のように調律中に何となく弾いてしまうことがある。

「そんな理由でも、ていうか、そんな理由だからこそ、いつまでも弾かれ続ける曲なんだろうし、もしかして、ピアノ曲の中で一番の傑作って、案外この曲だったりするのかもな」

私は冗談ではなく、本当にそう思っていた。

「…そういうことだと思うんだけどな」

と、突然、猫はそれまでの人を茶化すような感じではなく、落ち着いた口調になる。

「何がだよ…?」

私はその様子をいぶかしがりながら猫に質問する。それに対し猫は同じ調子で続ける。

「いや、だから、響子に対してもさ。別にいいじゃん理由とか。お前が響子のこと好きだっていう『結果』があるだろ?その事を伝えるだけで、十分にその言葉は『傑作』になるんじゃねーかっていう。母親を裏切ったまま失って、そんでピアノの調律師になったりして、何か、『ちゃんとしてない』ってことがトラウマになってるのか知らねーけどさ」



???

ちょっと待て。

何でこの猫は私の母のことを知っているんだ?

私はこの猫に母親のことを話した覚えは…

ん???

ていうか…

何で私は猫と会話しているんだ???



混乱している私の顔を見て、猫はニヤッと笑う。

「よく言うだろ。人に相談している時には、もう既に自分の中で答えが出ているモンだって」

そう言って猫は、それまでいたピアノの上から飛び降りて、その裏に入って姿を消す。



どういうことだ?

私は今まで猫相手に、

「自問自答」していたってことなのか???



私は呆然とその場に立ち尽くす。すると背後から、

「あの」

という声が聞こえ、振り向くと、そこにはティーポットとカップを乗せた盆を持って、彼女が立っていた。

「どうしたんですか?何か一人で喋ってましたけど…」

彼女は不思議そうに尋ねる。私はエ、ア、エエト、と、初めて彼女に出会った時の様にどもっていると、彼女は、

「さっき弾いてた『猫ふんじゃった』」

と言う。私は、え?と尋ねると、

「何か、何でとか、ちょっと上手く言えなくてアレなんですけど…良かったです、とっても」

そう言われ、私は何だかとても照れくさく、思わず下を向くと、彼女の足元には、いつの間にか猫がいた。

猫は例のごとくニヤニヤしていたが、もう私には何も語らず、ただニャアニャアと鳴いていた。










今回は完全に縛りにこういう話を「書かされた」って感じです。分かってます、こういうのが自分のガラじゃないっていうのは。

「ピアノの調律師」っていう設定を出したはいいけど、あまり生かせませんでしたね。ホントは、調律師⇒絶対音感の持ち主⇒猫の言葉も理解できる、っていう設定にしたかったんですけど、その解説で文の量が2倍になりそうだったんでヤめました。自分から要素を増やすモンじゃないなと思いました。


では、次回の縛りはコチラ。

題名が『ピエロ・ナイト』(又吉)

「すべては父の遺言から始まった。」という文で書き始める(神長)

「トリックスター」を文中に入れる(昆)

…何か急に縛りの難易度上がってないですか?きっと本番近いところに縛り考えてくれって言ったんで怒ってるんでしょうね。何だ『ピエロ・ナイト』って。「トリックスター」っていうのは、物語をひっかき回しながらも新しい展開を起こす道化的存在のことだそうです。アレ?じゃあそいつの話を書けば『ピエロ・ナイト』はクリアできるんじゃないか?父の遺言から始まる話といえば、財産相続を巡る血縁者同士の争い、みたいな昼ドラな展開でしょうか。

次は公演終了後くらいに更新できればと思います。それでは次回。
posted by 渡辺 at 17:52| 縛文 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2008年09月01日

第1縛 『アイロニー』

朝、目を覚ますと隣に何かがいた。
 
「何か」というボンヤリとした表現を用いたのは、それが僕の目には本当にボンヤリと映ったからである。
 
僕は寝ぼけ眼をこすり、再びその「何か」に目をやった。しかしながら、それは相変わらずボンヤリとした「何か」のままだった。

そのボンヤリとした「何か」を、僕もボンヤリと眺めていると、ある奇妙な現象に気が付いた。それは、ボンヤリとしているのがその「何か」だけで、それ以外のモノは普通にハッキリと見えている、ということだった。

僕はもう一度目をこすったが、やはり「何か」だけが、そこだけボカシがかかったように不鮮明で、その周囲には、見慣れた僕の部屋の風景がちゃんと見えていた。汗で黄ばんだ布団、日にちの設定が2日ズレてる目覚まし時計、大学生時代に先輩からもらったテーブル、その上には食べ終わってそのままになっているカップ麺の容器、フローリングの床に読み散らかしてある雑誌、安っぽいパステルカラーのカーテン、その隙間から覗く窓…。

と、窓に目をやると、外は雨が降っていた。強い雨ではないが、どこまでも続く曇天と、その強すぎない雨量が逆に、しばらく止む気配が無いことを伝えていた。

窓ガラスをつたう雨粒を見つめながら、僕は、今日のバイトを休む言い訳を考えていた。そう、いつも僕はこんな感じである。雨が降ったり、風が強かったり、その程度のことですぐバイトをサボる。まるでカメハメハ王国の住人である。

ちなみにだが、僕は名前が「宮沢賢治」という。あの作家の宮沢賢治と同姓同名だ。母が宮沢賢治が好きで付けたらしいのだが、まさかこんな、雨ニモ風ニモ負ケル、サウイフ息子になってしまうとは思っていなかっただろう。何とも皮肉な話である。しかもバイト先は、注文の少ない料理店だ。これは別に関係ないか。

そんな僕、宮沢賢治は今、大学卒業後、24になっても、定職に付かずプラプラとフリーター生活をしている。昨日もそのことで彼女と喧嘩になった。僕には大学時代から付き合っている彼女がいる。スポーツサークルとは名ばかりの飲みサークルで知り合った1コ下の後輩である。それから卒業後の今までズルズルと付き合っているが、さすがに最近彼女も将来に不安を感じ始めたらしく、ことあるごとに僕の今の状態に文句を言うようになってきた。

僕は昨日の彼女との喧嘩を思い返した。僕は部屋でゴロゴロしながら雑誌を読んでいた。すると彼女がテレビを見ながら僕に視線を向けず「そんなん読んでないで求人雑誌でも読んだら」と言ってきた。僕は、また来た、と思いながら、その会話が流れることを願って、あえてそっけない感じで「いや、オレ今のバイトあるし」と答えた。彼女は溜め息を一ついて僕の方を向き、「そういうんじゃなくて、もっとちゃんとしたさぁ…」と、ハッキリと焦れた感情を出した声で言った。僕は面倒臭くて返事をしなかった。その後の彼女の「ねぇ、聞いてる?」の問いも無視した。それが彼女の癇に触ったようで、彼女は床の上の雑誌を次々と僕に投げつけて来た。時々角が当たって思いのほか痛かったのだが、僕は無視を続けた。こういうのは通り雨みたいなモンだ。じっと待っていればじきに止む。そう思いながら。

そして僕の予想通り、彼女の雑誌攻撃は止んだ。しかし、その後予想外の事態が発生した。彼女から聞こえる鼻をすする音。彼女が泣き始めたのだ。「ふ、二人のことなんだよぉ?な、なのに何で、わ、私ばっかりこんなに悩んで…」嗚咽交じりにそう言う彼女。僕は本格的に面倒臭くなってきて、「ゴメンゴメン」と適当に謝りながら彼女にキスをしてゴマカそうとした。彼女は「イヤァ」とそれを拒否しようとした。僕は無理矢理彼女に口付けた。彼女は不服そうな顔をしながらも大人しくなった。さっきまで読んでいた雑誌のグラビアで若干ムラムラしていた僕は、そのキスで勢い付いてしまい、「彼女をなぐさめるためだ」と何故か自分に言い訳をしながら、彼女をベッドの方に引き連れた。僕に覆いかぶさられる彼女。すると、彼女は、事を始めようとズボンの金具を外そうとしている僕にこう言った。

「…出来ちゃったみたいなの」と。

その瞬間、僕の頭の中は真っ白になっていき、それにつれて、彼女の姿もボンヤリ

















ハッ、と我に帰り、僕はベッドに横たわる「何か」に目をやった。すると、それまでボンヤリとしていた「何か」の解像度が徐々に上がり始めた。そのボカシの下からゆっくり見えてきたのは、見覚えのある女性の姿だった。

僕は、とっさに目を閉じた。

僕の目蓋の裏では、僕に首を締められてもがく「何か」の姿が浮かんだ。

その「何か」の口元は歪み、まるで笑っているようだった。

そして、そこからは、空気が漏れ出しているような音が聞こえた。

カプカプ、カプカプと。



そして、僕は分かった。「何か」の正体が。

コイツは、クラムボンだ。

あの僕と同姓同名の作家が書いた、確か『やまなし』とかいう話に出てきた、あの正体不明の物体だ。そうだ。そうに違いない。

だってコイツ、カプカプ笑ってるじゃないか。



そして、僕は目を開けた。

さっきまで見えかけていたクラムボンの姿は、再びボンヤリとした状態に戻っていた。

僕は、ボンヤリとしたクラムボンをボンヤリ眺めながら、『やまなし』の一節を口にした。


クラムボンは、カプカプ笑ったよ。

クラムボンは、動かなくなったよ。

クラムボンは…。


雨は、まだ降り続いていた。







一発目から気持ち悪い話でスミマセン。もうちょっと読んでて楽しい話が書けるように努力します。

今回は「宮沢賢治」っていうワードにちょっと引っ張られすぎた感じがしますね。途中、「何か」をほったらかしにしてる間が長くなってしまいました。あと「アイロニー」って題が全然生きてないです。宮沢賢治がクラムボンを殺したっていうのが、皮肉って思えないこともないかも…ダメですかね。ダメですね。精進します。


では、次回の縛りはコチラ。

題名が『マスターピース』(又吉)

「その猫は、にやにや笑いながら私にこう言った。」という書き出しで始める(神長)

「母の面影」を文中に入れる(昆)

題名が「傑作」っていうのは物凄いプレッシャーですね。次回はしゃべる猫が登場ですか。しゃべる猫と言えば『魔女の宅急便』でキキがしゃべらなくなった時のあの寂しさはなんなんでしょうか。「母の面影」は何となく感動系にもって行けという無言のメッセージな気がします。


この企画は半月に1回くらいのペースで更新できればと思っております。それでは次回。
posted by 渡辺 at 03:52| 縛文 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

第0縛 『縛り初め(しばりぞめ)』

というわけで始まりました、この『緊縛ショートショート』。

この企画は、PFメンバーから出された「縛り」に従って、ワタクシ渡辺キョウスケが、短編小説なんぞを書いてしまおうというものです。

ちなみに僕、戯曲は書いたことがあるんですが、小説形式で物語を書いたことがありません。まあでも、つまんなかったら縛りのせいにしてしまおうという、この企画の根幹を揺るがすような保険をかけつつ、おぼつかない手つきながら始めたいと思います。


では、PFメンバーから出された一発目の縛りはコチラ。

題名が『アイロニー』(又吉)

「朝、目を覚ますと隣に何かがいた。」という書き出しで始める(神長)

「宮沢賢治」を文中に入れる(昆)

「アイロニー」は又吉クン本人のボキャブラリーから出たものじゃなくて、辞書か何かから引っぱって来たものな感じがします。神長サンの書き出し文はオーソドックスな感じで書きやすそう。「宮沢賢治」は昆と同郷(岩手)だからでしょうか。宮沢賢治と聞いてパッと思いついた作品が『走れメロス』でした。太宰治だっつーの。


それでは、この縛りで第1作品目を書いてみたいと思います。
posted by 渡辺 at 01:21| その他 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
×

この広告は1年以上新しい記事の投稿がないブログに表示されております。