渡辺キョウスケが、PFメンバーから出された「縛り」にそって短編小説を執筆。
     もうギッチギチに縛られてます。

2008年10月13日

第3縛 『ピエロ・ナイト』

すべては父の遺言から始まった。

「お前には、トリックスターの血が流れている」

その言葉を残して父はこの世を去った。オレには何のことなのかサッパリ分からなかった。オレは泣く母に父の言葉の意味を尋ねた。すると母は黙って、手のひらにおさまる程度の小さな箱を懐から取り出し、オレに手渡した。開けてみなさい、と母が言うので開けると、その箱の中には、赤い色をした、小さな球体が入っていた。オレはそれを箱から取り出し、手にとって見てみると、球の3分の1程にポッカリと穴が空いていることに気付いた。その穴を眺めていると、母はオレに、つけてみなさい、と言った。オレは意味が分からず、ハ?と聞き返すと、母は、つけてみなさい、と繰り返し、その後に、鼻に、と付け足した。オレは何故?と思いながらも、母に言われるがままに、その赤い球に空いた穴に、自分の鼻をスポッとはめ込んだ。すると母は、おそらくピエロの様な赤鼻の様相になったオレの顔を見て、急に泣き崩れた。何事かと驚いたオレは、どうしたんだと母に問うと、母は、それまで隠されていたオレの出生の秘密を話し始めた。

オレは、死んだ父の本当の子供ではなかった。オレの本当の父親は、とあるサーカス団でピエロをしていた男だった。彼は、百年に一度の才能だと言われる程の天才ピエロだった。玉乗り、ジャグリング、空中ブランコ、ナイフ投げ、猛獣の扱いといった芸当を、まるで呼吸をするかのようにこなすことが出来た。しかし、彼が天才と言われる理由はそれだけでは無かった。彼はそれらを、いつも完璧なタイミングで「失敗すること」ができた。もちろんそれはワザとであったが、彼は決してそれをワザとらしく見せることは無く、傍からは、さも彼が芸が成功したことに調子に乗って失敗した様に見え、観客は、彼のその滑稽さにいつも手を叩いて爆笑した。彼は、観客が自分に何を求めているかを完全に理解していた。他の団員たちは、そんな彼に敬意を表し、「道化的存在」という意味のその言葉に、このサーカス団の「スター」であるという意味をひっかけて、彼を「トリックスター」と呼ぶようになった。

そんな中、当時、彼のアシスタントをつとめていた母は、いつもステージ横で彼を見ていて、いつしか彼に恋をし、そして二人は結ばれ、二人の間には、一人の男の子が誕生した。母は、その生まれた子供が、他の子供からバカにされることを危惧し、彼にピエロを辞めてほしいと頼んだ。ピエロという自分の職業に誇りを持っていた彼は怒り、その願いを聞き入れようとはしなかった。そこで母は、サーカス団の団長に頼み込み、彼が空中ブランコにちょっとした細工をした。それは、彼がそれにぶら下がった瞬間、ひもが切れるというもので、そのまま彼は、下の保護ネットに落ちるという算段であった。そうすれば、ピエロとして絶対的に自信のある彼は、その自分の意図していなかった失敗に絶望し、ピエロをきっと辞めるだろう。そう母は考えたのである。そして本番、母の計画通り、空中ブランコのひもは彼がぶら下がった瞬間プツッと切れた。しかしその後、予期せぬ事態が発生した。落下地点が保護ネットのある位置より若干ズレたのだ。彼はそのまま地面に叩きつけられた。あまりの突然の事態にサーカスのテント内は静まりかえった。すると、何と彼は、ゆっくりと立ち上がり、そして「失敗しちゃった」と言わんばかりに舌を出して気まずそうに笑ったのだ。緊張の糸が解け、一気にテント内は笑いに包まれた。彼は四方の客席に一通り礼をし、ヨロヨロと、時々つまづいて転びながら楽屋に帰っていった。客席からは、彼が転ぶ度に笑いが起こった。彼の身を案じて、母と団長が慌てて楽屋に駆け込むと、そこでは彼が床に倒れ込んでいた。息はすでにしていなかった。彼は、最後までピエロであることを貫き通し、そしてピエロとして死んでいったのだった。

母と団長は、自分たちが彼を殺してしまったと、その罪の意識に悩み、サーカス団をたたんで、彼のことを秘密にしながら子供を育ててきた。その子供がオレであり、そしてその団長が、さっき息を引き取った父だったのだ。母は、その赤鼻は、本当の父親である彼の形見の品だと言い、そして全てを話し終えた後、許しておくれと号泣した。オレには、自分を愛してくれるが故にその行動に及んだ母を、そして、今日まで本当の息子の様に自分を育ててくれた父を恨む気持ちなど全く生まれてこなかった。ありがとう、話してくれて。そう言ってオレは母の肩を抱き、そしてオレは、話を聞いたことで生まれた「別の感情」を母に伝えた。

「オレも、トリックスターになりたい」と。

それは、本当の父に対する「憧れ」という感情だった。

こうしてオレはトリックスターになるために、次の日から「ピエロ専門」の学校に通うことになった。父の形見である赤鼻を付け、母からもらった地図を見ながらその学校のある場所に向かうと、そこには巨大なテントが一つ建っていた。その入り口には「私立道化専門高等学校」と書かれていた。どうやらこれが校舎らしかった。

校舎とは思えない怪しげなそれに入ることがためらわれていると、どこからともなくグルオオオオオ!!と、獣の咆哮が聞こえた。驚いてそちらを向くと、そこには何十匹もの虎やライオン、象などの猛獣・巨獣にまたがった、ケバケバしい格好のピエロたちがこちらに向かっていた。そして、滑稽というよりも、どちらかと言えば凶悪に見えるメイクをしたピエロの一人がオレに、

「テメエがこの道高(ドーコー)に編入してきたっつーピエロかコラァ!?」

とタンカを切ってきた。ヤバイ。編入早々、不良ピエロに絡まれた。オレは恐怖におののき、エ、アノ、ソノ、などとドモっていると、そのピエロたちの中でもリーダー格だと思われる、巨大なライオンにまたがった、これまたデップリとした巨体のモヒカンヘアーのピエロが喋り始めた。

「オレはこの道高一のピエロ、『猛獣使いのチャーリー』だ。オイ、新入り。早速だがお前、何か芸やってみろや。ここでは新入りはまず、オレ様にアイサツ代わりに芸を披露する慣わしになってんだ。つまんなかったら、オレ様のカワイイ相棒、カメヤマがテメエの右腕を今日のランチにしちまうぜ」

そう言うと、そのチャーリーと名乗るピエロはグヘヘと笑い、カメヤマと呼ばれたその朴訥とした名前に似合わない獰猛そうなライオンは、オレを見て舌なめずりをした。冗談じゃない。これまで普通の高校生として暮らしてきたオレに、ピエロを満足させる芸などできる訳がない。オレはその場から一目散に逃げ出した。

「ハッ!オレ様から逃げられると思ってんのかよ!追えカメヤマ!」

チャーリーを乗せたまま、カメヤマはオレに飛び掛ってきた。ダメだ、食われる。そう思った刹那、オレとカメヤマの間に、シュバババッと、数十本のナイフがどこからか降り注ぎ、そしてそれがタタタッと地面に正確に列を成して突き立った。そして、カメヤマの自慢のたてがみの一部がハラリと落ちた。驚きを隠せないオレとカメヤマ。

「あいかわらず弱いモノいじめか?動物王国のチャーリーさんよ」

その声のする方を向くと、そこにはピエロたちが電線の上にズラッと立ち並び、お手玉をするかのようにナイフをクルクルと投げ回していた。その中のリーダー格と思われる、死神を連想させる容貌の、やせぎすったピエロがチャーリーに話しかけた。

「この、『軽業のピエール』を差し置いて、道高一を名乗るたぁ聞き捨てならねえな…オイ新入り!」

と、この隙に逃げようとしていたオレに、ピエールというそのピエロはナイフを投げつけてきた。オレの足元に刺さるナイフ。「ヒッ!?」という情けない声をオレは思わずあげた。

「よく覚えときな!道高一のピエロはこのオレ、ピエール様だってな!」

「ちょっと待て!」と叫ぶチャーリー。「テメェが一番だと?ふざけんなよこのヤセ雀が!どうやら今日こそテメェと決着つけなきゃいけねぇみてぇだな…!」

「ククク…」と不気味に笑うピエール。「いいだろう、望むところだ…」

そして、二人は同時に叫んだ。

「決闘だ!!」

その瞬間、互いのピエロ軍団が一斉に相手側に飛び掛った。飛び交うナイフと猛獣たち。互いの実力は互角で、一人、また一人とピエロ達が倒れていき、オレはその中を、ただただ逃げ惑うしかなかった。

そして、それからどれくらいたっただろうか。チャーリーとピエールが、互いの拳を相手の顔面に入れ合い、相打ちで地面に倒れた時、校庭に立っているピエロは一人もいなくなっていた。

ただ一人、オレを除いては。

「なるほど、漁夫の利を狙うとはな…なかなかのピエロだぜ…」とピエール。

「テメェ、一体何もんだ…?」とチャーリー。

オレは二人に、こう答えた。

「オレは、トリックスターになる男だ」と。





…そこで目が覚めた。



何だ、この夢は。



時計を見ると、時刻は午前二時を指している。

ああ、明日も学校だ、早く寝なくては。そう思って、夢のせいでかいた寝汗を拭おうとした時である。



鼻に、何か違和感が。


触ってみると、球体のようなものが上にかぶさっている。



と、部屋のドアの方から気配が。


見ると、その隙間から、こちらを覗く父と母が見えた。











公演終わるくらいに更新って言ってたのに、終わって一週間経っちゃいました。遅くなってスミマセン。公演参加してないんですけどね僕。

今回はわりとエンターテインメントにできたんじゃないかと思ってます。夢オチですけど。もっと色んなピエロ出したかったです。猛獣使いと曲芸師ってまんま『ONE PIECE』のバギー海賊団のモージとカバジですね。「トリックスター」に憧れるっていうのは、ジョジョ5部の「ギャングスター」に憧れるっていうのを意識しました。そういやちょっとこの話ジャンプっぽいかも。そうでもないですか。そうでもないですね。


では、次回の縛りはコチラ。

題名が『4人目』(又吉)

「やっぱり行くんじゃなかった」という文で書き始める(神長)

「3000円以下」を文中に入れる(昆)

次は月末位に更新予定です。頑張ります。それでは次回。


posted by 渡辺 at 05:42| 縛文 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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