渡辺キョウスケが、PFメンバーから出された「縛り」にそって短編小説を執筆。
     もうギッチギチに縛られてます。

2009年12月22日

第6縛 『靴は投げられた』

何やら暗いと思ったら、蛍光灯が切れているじゃないか。

部屋の天井の、4本ある内、家を出る前は2本点いていたのに、今は1本しか点いていない棒状の蛍光灯を、ライトカバー越しに見つめながら、私はそう思った。

そろそろ買い換えなくてはとは思っていたのだが、ついに1本になってしまったか。この部屋に越してきてからかれこれ3年、それまで一回も取り替えたことが無かったので、蛍光灯って案外長持ちするもんだなぁ、などとぼんやり思っていたが、さて、どうしたものか。仕事から帰ってきたばかりなので、今からまた外に出て買いに行くのが面倒くさい。しかしながら、これまでもそう言って買いに行かず、それで今日残り一本になってしまった訳で。買いに行くべきか、行かざるべきか、それが問題だ、などと、どこかの悲劇の主人公ばりの苦悩が、私の頭に渦を巻いた。

「・・・よし」

そう言って私は、おもむろにトイレに向かい、そのドアを開け、置かれているスリッパを履いた。そして、その片方を思いっきり廊下の宙に飛ばした。くるくると回転し、放物線を描きながら廊下を飛んでいくスリッパ。それを見つめながら、私はこう思ったのだった。

「表が出たら行かなくていい、表が出たら行かなくていい・・・!」

回転するスリッパは、パコンッという軽い音をたてて天井にぶつかり、そのままフローリングにベチッと墜落した。

「・・・うわあ」

落ちたスリッパを見て私は思わずうめき声をあげた。

スリッパは見事に裏を向いていたのだった。



・・・私は、昔から常々、何かの選択に迷った際は、「靴占い」の結果に従うようにしていた。

「靴占い」・・・そう、あの子供の頃なんかに、「明日天気になあれ」とか言って靴を蹴り投げて、表が出たら「晴れ」とか、裏が出たら「雨」とか、側面だったら「曇り」とかっていう、あの「靴占い」である。

もちろん私自身、こんな事、今年で25になる成人男性がやるようなことじゃないというのは重々承知している。しかしながら、私がこの子供じみた行為を続けるのには訳があった。

というのも、事の始まりは、私が5歳の夏、父の実家に里帰りをしていた際、祖父にこの「靴占い」を教えてもらい、生まれて初めてやってみた時だった。私は祖父に教えてもらったとおり、「明日天気になあれ」と靴を飛ばした。すると、勢いが強すぎたのか、靴は思いのほか遠くに飛んで行き、祖父の家の庭を越えて、横にある畑の方まで行ってしまった。私は慌てて、ケンケンをして畑まで見に行くと、何と靴は畑につま先から突き刺さって立っていた。私は、後ろから着いて来た祖父に、「これはどういうこと?」と尋ねると、祖父は笑いながら、「こりゃあきっと、明日は雪か雹(ひょう)が降るなあ」と答えた。

そして翌日。祖父の家の中で夏休みの宿題をやっていると、突如、上から、バラバラバラッ!という音がして、次の瞬間、ガシャーンッ!と、何かが窓ガラスを割って家の中に飛び込んできた。それはゴルフボール大の氷の粒だった。驚くことに、本当に雹が降ってきたのだ。何でも、積乱雲からは夏でも稀に雹が降るということがあるらしいのだが、それからの私は、靴占いに絶対的な信頼を寄せるようになり、事ある毎に、自らの選択を靴に委ねるようになった。

もちろん、雹が降ったのは偶然だし、その後の占いも、別に確実に当たるという訳ではなかった。しかしながら、あの時の衝撃から、占いの結果に従うことにはとても大きな安心感を感じることができたし、逆に、結果に背いた行動をとる時には不安が付きまとい、恐らくその心理状況を反映してだろうか、占いの結果に従うと、物事は上手くいくことが多く、背いた行動をとれば、失敗することが多いという具合であった。



「・・・面倒くせえジンクスだよなあ」

私は、愚痴をつぶやきながら、近所にある、深夜まで営業している量販店まで歩いて向かった。店内に入ると、耳慣れた安っぽいBGMがスピーカーから流れており、私はそのBGMを口ずさみながら蛍光灯の売り場を探した。確か蛍光灯は、雑貨売り場の文具コーナーの、さらに横に置かれていたはず。私は、雑貨売り場に向かい、文具コーナーを見つけ、そして棚に陳列された商品を順々に見ていった。ノート、ファイル、色とりどりのペン、アニメキャラクターが描かれた子供向けの文房具セット・・・。

と、その時、

「雨宮クン?」

と、私の名を呼ぶ聞き覚えのある声。私は声の方を振り向いた。

「あ、やっぱり雨宮クンだ」

そこには、会社の同僚の太田陽子が立っていた。太田陽子。会社の誰もが狙っているアイドル的存在。無論その一人である私は、思わぬ対面に動揺を隠せず、

「わ!や、え?あれ?え?太田?え?あれ?何で?え?」

と、しっちゃかめっちゃかとしか言いようの無い状態になっていると、彼女は、「え?何?どうしたの?」と笑った。嗚呼、笑顔が眩しい。

「あ、いや・・・え?太田って、この辺なの?」
「うん。雨宮クンもそうなんだ?」
「え?あ、うん・・・」

私は心の中でガッツポーズをした。何とあの太田陽子が自分の近所に住んでいたとは。嗚呼、私服姿が可愛い。

「・・・え、じゃあ太田も、この店とか結構来るの?」
「うん、割と使うかな。ここ夜中までやってるから便利だよね」
「分かる分かる。オレも今日、家帰ったら蛍光灯切れててさ、それで」
「ああ、そうなんだ。私も、録画したい番組があったから、DVD−R買おうと思って」
「ああ、へー・・・」
「うん・・・」

ダメだ。会話が続かない。くそう、彼女の心をガッチリつかめる様な、そんなキャッチーな話題は無いのか。そう思えば思うほど、私は言葉に詰まっていく。

「・・・じゃあ、私」
「え?」

棚からDVD−Rを取り、帰ろうとする彼女。ああ、もうちょっと喋りたい。喋ってもっと仲良くなりたい。何か声をかけなくては。

「あ・・・じゃあ、また明日会社で」
「うん、じゃあね」

嗚呼、オレの馬鹿。帰してどうするんだ。頼む、帰らないでくれ。ていうか、近所なら一緒に帰りたい。私に背を向け、売り場から遠ざかっていく彼女。声をかけて引き止めようか。いや、ここで引き止めては気持ち悪いと思われやしまいか。声をかけるべきか、かけざるべきか、それが問題だ。苦悩が私の頭に渦巻いた。

「・・・よし」

そう言って私は、右の靴を半分脱いだ。ここはやっぱり、こいつに頼るしかないだろう。表が出たら声をかける。裏が出たら止めておく。どちらが出てもオレはお前に従うぞ。でも頼む、表が出てくれ。そう私は強く願って、靴を飛ばそうとした。その時である。

「待てー!!」

向こうの方からそう叫ぶ声が。そちらを向くと、一人の若い男がこちらに走ってきて、私の横を猛スピードでかけ抜けて行った。

「そいつはスリだー!!捕まえてくれー!!」

後から追いかける中年の太った男の客が、息も切れ切れに周りの客に向かって叫んだ。眼を凝らして見ると、逃げる男の手元には、おそらく中年客のものと思われる財布が。とっさに私はスリの男を追いかけようとしたが、靴を半分脱いでいたので走ることができなかった。

「くそおっ!」

そう叫んだ私は、靴を脱いで、それを手に持って振りかぶり、スリの男の方に向かって思いっきり投げつけた。靴はくるくると回転してとんで行き、パコーンッ!という音を立てて男の頭に見事命中した。その場に倒れるスリの男。

「・・・当たっちゃった」

まさか本当に当たるとは思っていなかった私は、周囲の客が倒れた男を一斉に取り押さている光景をボンヤリみつめていた。と、後ろから、

「雨宮クン!!」

と、太田陽子がこちらに走ってやってきた。

「大丈夫!?ケガとかしてない!?」
「あ、いや、オレは別に・・・あ、そうだ、靴」

私は彼女に肩を借り、ケンケンで靴を取りに行った。

すると靴は、スリの男が倒れたときに一緒に倒した商品の山に、つま先から突き刺さって立っていた。

「・・・刺さってるね、雨宮クンの靴」
「これは・・・プロポーズでもしろってことか?」
「え?」
「あ、いや、何でもない・・・」

私は、彼女とボンヤリその光景を眺めながら、もう少しの間彼女の肩を借りていようと思った。











お久しぶりです。いやあ、長いGWでした。

ロマンチックなラブストーリーにしようと思ったら、主人公の男が何か気持ち悪いヤツになっちゃいました。これアレですかね、僕が気持ち悪いからですかね。誰がだよ。


では、次回の縛りはコチラ。

題名が『インスタントミュージック』(又吉)

「ついにパソコンも壊れた」という書き出し文で始める(神長)

「ソフトドリンク」を文中に入れる(拓司)

今回から、文中に入れる単語の縛り担当を、昆と拓司の交互で行きたいと思います。

次回更新は、次の公演(vol.8)が始まる頃に。多分その頃になったら、今回みたいに又吉クンにせっつかれると思うんで。


それではまた次回。


posted by 渡辺 at 17:45| 縛文 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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