渡辺キョウスケが、PFメンバーから出された「縛り」にそって短編小説を執筆。
     もうギッチギチに縛られてます。

2008年09月01日

第1縛 『アイロニー』

朝、目を覚ますと隣に何かがいた。
 
「何か」というボンヤリとした表現を用いたのは、それが僕の目には本当にボンヤリと映ったからである。
 
僕は寝ぼけ眼をこすり、再びその「何か」に目をやった。しかしながら、それは相変わらずボンヤリとした「何か」のままだった。

そのボンヤリとした「何か」を、僕もボンヤリと眺めていると、ある奇妙な現象に気が付いた。それは、ボンヤリとしているのがその「何か」だけで、それ以外のモノは普通にハッキリと見えている、ということだった。

僕はもう一度目をこすったが、やはり「何か」だけが、そこだけボカシがかかったように不鮮明で、その周囲には、見慣れた僕の部屋の風景がちゃんと見えていた。汗で黄ばんだ布団、日にちの設定が2日ズレてる目覚まし時計、大学生時代に先輩からもらったテーブル、その上には食べ終わってそのままになっているカップ麺の容器、フローリングの床に読み散らかしてある雑誌、安っぽいパステルカラーのカーテン、その隙間から覗く窓…。

と、窓に目をやると、外は雨が降っていた。強い雨ではないが、どこまでも続く曇天と、その強すぎない雨量が逆に、しばらく止む気配が無いことを伝えていた。

窓ガラスをつたう雨粒を見つめながら、僕は、今日のバイトを休む言い訳を考えていた。そう、いつも僕はこんな感じである。雨が降ったり、風が強かったり、その程度のことですぐバイトをサボる。まるでカメハメハ王国の住人である。

ちなみにだが、僕は名前が「宮沢賢治」という。あの作家の宮沢賢治と同姓同名だ。母が宮沢賢治が好きで付けたらしいのだが、まさかこんな、雨ニモ風ニモ負ケル、サウイフ息子になってしまうとは思っていなかっただろう。何とも皮肉な話である。しかもバイト先は、注文の少ない料理店だ。これは別に関係ないか。

そんな僕、宮沢賢治は今、大学卒業後、24になっても、定職に付かずプラプラとフリーター生活をしている。昨日もそのことで彼女と喧嘩になった。僕には大学時代から付き合っている彼女がいる。スポーツサークルとは名ばかりの飲みサークルで知り合った1コ下の後輩である。それから卒業後の今までズルズルと付き合っているが、さすがに最近彼女も将来に不安を感じ始めたらしく、ことあるごとに僕の今の状態に文句を言うようになってきた。

僕は昨日の彼女との喧嘩を思い返した。僕は部屋でゴロゴロしながら雑誌を読んでいた。すると彼女がテレビを見ながら僕に視線を向けず「そんなん読んでないで求人雑誌でも読んだら」と言ってきた。僕は、また来た、と思いながら、その会話が流れることを願って、あえてそっけない感じで「いや、オレ今のバイトあるし」と答えた。彼女は溜め息を一ついて僕の方を向き、「そういうんじゃなくて、もっとちゃんとしたさぁ…」と、ハッキリと焦れた感情を出した声で言った。僕は面倒臭くて返事をしなかった。その後の彼女の「ねぇ、聞いてる?」の問いも無視した。それが彼女の癇に触ったようで、彼女は床の上の雑誌を次々と僕に投げつけて来た。時々角が当たって思いのほか痛かったのだが、僕は無視を続けた。こういうのは通り雨みたいなモンだ。じっと待っていればじきに止む。そう思いながら。

そして僕の予想通り、彼女の雑誌攻撃は止んだ。しかし、その後予想外の事態が発生した。彼女から聞こえる鼻をすする音。彼女が泣き始めたのだ。「ふ、二人のことなんだよぉ?な、なのに何で、わ、私ばっかりこんなに悩んで…」嗚咽交じりにそう言う彼女。僕は本格的に面倒臭くなってきて、「ゴメンゴメン」と適当に謝りながら彼女にキスをしてゴマカそうとした。彼女は「イヤァ」とそれを拒否しようとした。僕は無理矢理彼女に口付けた。彼女は不服そうな顔をしながらも大人しくなった。さっきまで読んでいた雑誌のグラビアで若干ムラムラしていた僕は、そのキスで勢い付いてしまい、「彼女をなぐさめるためだ」と何故か自分に言い訳をしながら、彼女をベッドの方に引き連れた。僕に覆いかぶさられる彼女。すると、彼女は、事を始めようとズボンの金具を外そうとしている僕にこう言った。

「…出来ちゃったみたいなの」と。

その瞬間、僕の頭の中は真っ白になっていき、それにつれて、彼女の姿もボンヤリ

















ハッ、と我に帰り、僕はベッドに横たわる「何か」に目をやった。すると、それまでボンヤリとしていた「何か」の解像度が徐々に上がり始めた。そのボカシの下からゆっくり見えてきたのは、見覚えのある女性の姿だった。

僕は、とっさに目を閉じた。

僕の目蓋の裏では、僕に首を締められてもがく「何か」の姿が浮かんだ。

その「何か」の口元は歪み、まるで笑っているようだった。

そして、そこからは、空気が漏れ出しているような音が聞こえた。

カプカプ、カプカプと。



そして、僕は分かった。「何か」の正体が。

コイツは、クラムボンだ。

あの僕と同姓同名の作家が書いた、確か『やまなし』とかいう話に出てきた、あの正体不明の物体だ。そうだ。そうに違いない。

だってコイツ、カプカプ笑ってるじゃないか。



そして、僕は目を開けた。

さっきまで見えかけていたクラムボンの姿は、再びボンヤリとした状態に戻っていた。

僕は、ボンヤリとしたクラムボンをボンヤリ眺めながら、『やまなし』の一節を口にした。


クラムボンは、カプカプ笑ったよ。

クラムボンは、動かなくなったよ。

クラムボンは…。


雨は、まだ降り続いていた。







一発目から気持ち悪い話でスミマセン。もうちょっと読んでて楽しい話が書けるように努力します。

今回は「宮沢賢治」っていうワードにちょっと引っ張られすぎた感じがしますね。途中、「何か」をほったらかしにしてる間が長くなってしまいました。あと「アイロニー」って題が全然生きてないです。宮沢賢治がクラムボンを殺したっていうのが、皮肉って思えないこともないかも…ダメですかね。ダメですね。精進します。


では、次回の縛りはコチラ。

題名が『マスターピース』(又吉)

「その猫は、にやにや笑いながら私にこう言った。」という書き出しで始める(神長)

「母の面影」を文中に入れる(昆)

題名が「傑作」っていうのは物凄いプレッシャーですね。次回はしゃべる猫が登場ですか。しゃべる猫と言えば『魔女の宅急便』でキキがしゃべらなくなった時のあの寂しさはなんなんでしょうか。「母の面影」は何となく感動系にもって行けという無言のメッセージな気がします。


この企画は半月に1回くらいのペースで更新できればと思っております。それでは次回。


posted by 渡辺 at 03:52| 縛文 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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