渡辺キョウスケが、PFメンバーから出された「縛り」にそって短編小説を執筆。
     もうギッチギチに縛られてます。

2008年12月03日

第4縛 『4人目』

やっぱり行くんじゃなかった。

大学時代、所属していた演劇サークルの先輩の劇団「プロフェッショナル・フェイスロック」の旗揚げ公演『ファンタジー・SF・ギャグ』を観に来た僕は、まだ開演もしていないのに、既に来たことを後悔していた。

というのも、開演5分前だというのに、客席には、僕一人しか座っていなかったからである。

オイオイ、コレじゃ公演にならないだろ。そう思った僕は、出入口に立っている受付スタッフのワタベ先輩に、

「あの、これって…公演中止ですよね?」

と、聞いてみた。するとワタベ先輩は、

「え?何で?できるでしょ」

と、全く焦る様子もなく、平然と答えた。

「イヤイヤ、だって観客オレ一人って、ありえないでしょ」
「いや、でも、旗揚げ公演なんて、どこもこんなモンだし」

そんな訳無い。いくら旗揚げ公演だからって、観客一人の公演だなんて聞いたことが無い。出演者の身内とか友人とかが、もう数人はいたりするんじゃないのか。

と、ここで僕は、ある事に気が付いた。

「そういや、“カゼタニ”の人らって他に来てないんスか?」

「カゼタニ」というのは、僕らが大学時代に所属していた演劇サークル「演劇集団『風の谷』」の略称である。そうだ、他のカゼタニの人間はどうしたんだ。昔の仲間が劇団を旗揚げをしたと言うんだから、観に来てやるのが義理というものなんじゃないのか。

「いや、それが何か、みんな仕事みたいで来れないみたいなんだよ」

いやいやいや、絶対嘘だ。プロフェッショナル・フェイスロック(長いので、以降PFと省略する)を旗揚げしたメンバーがカゼタニ在籍中、一緒に芝居を作った人間は上下合わせて40人はいるはずだ。それで僕以外が全員仕事で来られないなんて有り得ない。というか、僕だって今日は仕事を休んで来ているのに。きっと僕が観に行くという噂を誰かが聞き付けて、「アイツが行くなら他は行かなくてもよくね?」と他のみんなが口裏を合わせたに違いない。僕は、自分が人柱にされたことに気付き、無性に腹が立ってきた。

でも、みんながこのPFの芝居を観に行きたくない気持ちは何となく分かった。みんな、いい加減芝居から離れたいのだ。芝居というのは恐ろしいもので、一度足を踏み入れてしまうとなかなか抜け出せない。おそらく、集団で一つの公演を作る毎に感じる、学園祭の前夜のような、刹那的な祝祭感に中毒性があるのだろう。だからPFの人たちの様に、卒業後もその感じが忘れられなくて、ズルズルと芝居を続けてしまう人間が出てきたりする。しかし、誰もが分かっている通り、芝居で食っていくのは本当に難しい。だからこそ、卒業も就職もして、頑張ってようやく芝居から離れたのに、わざわざ自分から芝居に近づくようなことはしたくないのだ。それなのに今回観に来てしまった僕は、やはりどこかに芝居に対して未練があったのだろう。

しかしながら、今日のこの光景を見て、そんな気持ちもどこかに吹き飛んだ。やはり芝居をやっていくというのはここまで難しいことなのだ。ふんぎりの付いた僕は、芝居を観ずに帰ろうと思い、

「スミマセン、オレ、さっき会社からメールがあって、ちょっと急に帰らなくちゃいけなくなりまして…」

などと適当な嘘をついて劇場を出ようとすると、ワタベ先輩が、

「あ、そろそろ開演だから」

と、さえぎる様に言い放ち、強引に扉を閉め、扉の外からはガチャッという施錠の音が聞こえた。

「え!?ちょっと!先輩!ワタベ先輩!」

そんな僕の呼びかけを無視して、劇場内の客電は徐々にフェードアウトしていく。仕方無しに慌てて客席に着くと、完全暗転しきった舞台の中央にパッとスポットがついた。そこには、PFの座長であるマタヨリ先輩が、背中にマント、右手には剣というRPGゲームの勇者の様な格好をして立っていた。そしてマタヨリ先輩はおもむろに、

「ファンタジー!」

と叫んだ。すると、舞台の上手と下手にもスポットが点き、上手には銀河鉄道999のメーテルのコスプレをして、右腕がコブラのようにサイコガンになっているカミナダ先輩が、下手にはカトちゃんのようなハゲヅラ眼鏡にステテコ姿をした同期のカンが、それぞれ立っていた。カミナダ先輩は、マタヨリ先輩に続くように、

「サイエンス・フィクション!」

と叫ぶと、さらにそれに続くようにカンが、

「ギャグ!」

と叫び、そしてそれをキッカケに、色とりどりの照明が点滅し、チープな打ち込み音楽がピコピコと鳴り始め、それに乗せて、おそらく練習したのではあろうが、全くその成果が見えてこない殺陣をやり始めた。これはヒドイ。僕は観ながらそう思った。そんな殺陣をしながら、マタヨリ先輩は、

「伝説の剣よ!力を貸してくれ!」
「クリスタルの魔力が弱まっている!」

といった、ファンタジーっぽいセリフを連発し、カミナダ先輩は、

「機械の私に、感情など…!」
「0と1の狭間に見えるビジョン…これが未来なの!?」

と、SFっぽいセリフを、そしてカンは、織田雄二や福山雅治のモノマネをするモノマネ芸人のモノマネをひたすら繰り出した。これは一体、自分は何を観せられているのだろうか。おそらく、ファンタジー、SF、ギャグという3つの要素が戦っていて、それによって、その客ウケの良さそうな3要素を一度に観せようとしているのだろう、というのは分かるのだが、完全にただの要素の羅列になっていて、全く面白がることができない。つまらな過ぎる。観る前から入場料3000円は高いと思っていたが、これは3000円以下どころか、1000円以下、いや、むしろこっちがもらいたい位のヒドさだ。誰か助けてくれ。その後僕は、この地獄のような光景を、なんと10分もの間見せ続けられた。僕にはこれが何かの拷問のように思えた。僕が観るのに疲れ果ててグッタリしていると、ふいに音楽が変わり、今度は3人が、体のキレも無く、全く揃っていない、ボンヤリした振り付けのダンスを、上手くも何ともない歌を歌いながら踊り始めたではないか。うわあ、もう勘弁してくれ。苦痛を感じているこちらの心情など知らんと言わんばかりに、3人はキラキラとした、とてもイイ顔で歌い踊っていた。それはとても薄気味が悪く、まるで悪夢を観ているかのようだった。その悪夢の渦に巻き込まれるかの様に、僕は、自分の意識が段々と遠のいていくのが分かった…。





…気が付くと、芝居は終わっていた。

どうやら僕はそのまま眠ってしまったようだった。仕方が無い。アレは最後まで観続けるにはとても耐え難い作品だった。しかし、これでようやく地獄のような時間から解放された。僕は席から立ち上がろうとした。

すると、何故か体が全く席から動かない。

僕はそこで、自分の体が席に縄で縛り付けられていることに気付いた。

「目が覚めたようだな、コバシ」

と、自分の名を呼ぶ声の方を向くと、そこには舞台上の衣装から、ジャージに着替えたPFメンバーの3人が立っていた。

「お前は合格だ、コバシ」

と、マタヨリ先輩は続けて言った。僕は、先輩の言葉の意味が全く分からなかった。すると、今度はカミナダ先輩が、

「ようこそ、プロフェッショナル・フェイスロックへ」

と言うではないか。PFに合格?一体どういうことなんだ??混乱する僕の表情を見て、カンが説明を始めた。

「いいかコバシ。さっきの芝居はテストだったんだ。お前がこのプロフェッショナル・フェイスロックにふさわしい人間かどうかのな。さっきの芝居は、オレ達が“最も観せるべきではない”と考える芝居だ。それを観せられてお前が耐えられるかどうか、オレ達はそれをテストした。そしてお前は耐えられず、途中で寝てしまった。だからコバシ、お前は合格だよ」

「ちょ、ちょっと待って!」僕は話を止めた。「さっきから合格とかって勝手に言ってるけど、オレの意思はどうなんスか!?オレまだ入りたいだなんて一言も言ってませんよ!?」

「それについてはお前の中で既に答えが出てるんじゃないのか?」

とマタヨリ先輩。僕は「え?」と思わず聞き返す。

「お前自身、まだ芝居をやることに未練があるんじゃないのか?だから今日お前は3000円も払ってこの劇場にオレたちの芝居を観に来たんだろ?」

「う…」そう言われて、僕は何も言い返せなかった。

「決まりだな」マタヨリ先輩は言った。「これでお前は4人目のプロフェッショナル・フェイスロックメンバーだ」

「…え?」僕は疑問に思った。「『4』人目?『5』人目じゃないんですか?ワタベ先輩は?」

すると、マタヨリ先輩は、無言で客席後方の調光室を指差した。

そこには、「コバシすまん。オレは代わりに抜ける ワタベ」と書かれた貼り紙が。

そこで僕は、再び人柱にされたことに気付いた。











更新が予告より一ヶ月以上も遅れてしまいました…ご覧になられてる方々、大変申し訳ありませんです。

今回は、プロフェッショナルファウルに新メンバー・小林拓司が加入するということで、又吉クンから『4人目』という題が提出されたので、内容もこんな感じにしてみたのですが、この物語はフィクションであり、実際の団体名・人物とは一切関係ありません。やってませんよ、こんな入団テスト。芝居のタイトル『ファンタジー・SF・ギャグ』は、打ち込み系宅録一人ユニット・大正九年の曲のタイトルから拝借しました。そちらはとてもいい曲です。


では、次回の縛りはコチラ。

題名が『ファイナルファンタジー』(又吉)

「マジか。マジなのか。」という文で書き始める(神長)

「悪いおばさん」を文中に入れる(昆)


次回の題名が…。僕はYが好きです。

次回はクリスマス頃に更新できれば…いいなぁ。それではまた次回。


posted by 渡辺 at 00:33| 縛文 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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