渡辺キョウスケが、PFメンバーから出された「縛り」にそって短編小説を執筆。
     もうギッチギチに縛られてます。

2009年04月12日

第5縛 『ファイナルファンタジー』

マジか。マジなのか。

ベッドの上の目覚めたばかりの私は、周囲の状況を見て愕然となった。

というのも、周囲に並べて置かれているベッドのどれにも、そこに寝ていたはず私の「仲間」が誰一人いなかったからだ。

「起きたのかい」

その声に振り向くと、そこにはこの「宿」の管理人である、私たちが「おばさん」と呼んでいる初老の太った女性が立っていた。

「他の皆は?」

私は、返ってくるであろう最悪の答えを予想しながらも恐る恐るおばさんに問いかけた。

「見りゃ分かんだろ。今の今まで寝てたのはアンタだけだよ」

聞きなれたいつも無愛想なトーンでおばさんにそう告げられた私はその瞬間、事態をはっきりと認識した。

「・・・寝坊したぁ!!」

私は間抜けな叫び声を上げ、そしてベッドから飛び降りると、慌てて階段を駆け降りて1階に行き、そして、そこに2階のベッドと同じように、仲間のものと一緒に並べて置かれている自分のロッカーを開け、そこから真っ赤な色をした「作業着」を取り出した。

「何で起こしてくれなかったんだよ!」

作業着に袖を通しながら、私は2階にいるおばさんに聞こえるよう声を荒げて文句を言った。

「気持ち良さそうに寝てる人間起こしちゃ悪いと思ってね」

階段を降りながら無感情におばさんはそう答える。私はそれを聞いて信じられないと思った。他の仲間が起きて「仕事」に出かけていて、それで一人だけまだ寝ている奴がいたら、普通ソイツのことを起こしてやるものだろう。何て意地の悪いおばさんなんだろう。

でも今更おばさんに文句を言っても仕方が無いし、確かに寝坊したのは自分のせいだ。なので私はおばさんに対する怒りをグッと耐え、それ以上何も言わなかった。

作業着を着終え、そして作業着と同じ真紅の「帽子」を被り、準備が出来た私は、急いで仕事に出かけようとした。その時、

「どこ行く気だい?」

背後から、おばさんが私に相変わらず無感情に問いかける。

「どこって・・・そんなの仕事に決まってんだろ!」

「・・・無駄だよ」

おばさんは私にそう言い捨てた。今更行っても遅いとでも言いたいのか。おばさんの皮肉に私は堪忍袋の尾が切れてしまいそうだったが、相手にするだけ時間のロスだと思い、無視して宿の玄関の戸を開けた。

そこに広がる光景を見て、私は言葉を失った。

そこには、桜が満開に咲き乱れ、風に吹かれて桜吹雪が舞い散っていた。


「・・・おばさん」

私は口をパクパクさせながら宿の中のおばさんの方を振り返った。

「何だい」

「あのさ、今って・・・いつ?」

「おかしなことを聞くね。今は今に決まってるだろ」

「いや、そういうことじゃなくてさ・・・日時的なことで」

「ああ・・・」

おばさんは壁にかけられたカレンダーを確認し、答える。

「4月12日だね」

「じゃあ・・・クリスマスって?」

「終わったよ、とっくにね」


それを聞き、私はまだ夢をみているような気分だった。それもとんでもない悪夢を。

私は12月24日のクリスマス・イヴから25日のクリスマスにかけての深夜に起きて仕事に出かけるはずだった。

それが、年をまたいで、4月に目を覚ましてしまったのだ。


私が状況が読み込めず混乱していると、おばさんがふいにこう告げた。

「・・・アンタはね、もう「配達」に行かなくてもいいんだよ」

「・・・え?」

「アンタらは、もう「いないこと」になりつつあるんだ」

「・・・どういうこと?」

おばさんの言っていることの意味が分からない私に、おばさんはこう続ける。

「アンタらは、人々の想像の中で生きている。だから、人々がアンタらをいるって信じている限り、そうやって存在することができた・・・でもね、最近、アンタらの存在を信じる人間が減ってきているんだ」


嫌な予感がした。

私は急いで2階の寝室に戻った。
そこには先程と変わらず誰もいないベッドが並んでいる。

私の後を追い2階に上がってきたおばさんに、私は詰め寄った。

「ねえ、おばさん、他の皆は?今4月だったらさ、もうとっくに仕事終わって、で、また次のクリスマスまでココで寝てるはずでしょ?ねえ、どこいったんだよ?ねえ!?」

「・・・もういないよ」

おばさんは、暗い表情をしながら言った。

「他の連中は、消えつつある自分たちの存在を消さないために、一番若いアンタ一人に自分たちの存在を「統一」したんだ。だから、今はもうアンタしかいない」

「そんな・・・」

私は誰もいないベッドの前にへたり込んだ。どうしようもない絶望感と、何も知らず眠りこけていた自分に対する悔しさが全身を包み、頬を涙が伝った。

すると私の肩に、おばさんが後ろからそっと手を置いた。

「アンタも今の今まで目が覚めなかったんだ。その位アンタの存在もすでに消耗してきているってことなんだろうね・・・だから、後はもうここでゆっくり休みな。アンタらは今まで十分過ぎるくらい働いてきたんだからさ」

「おばさん・・・」

無愛想で皮肉屋だとずっと思っていたおばさんに、これほど優しい言葉をかけられたのは初めてだった。いや、違う。このおばさんは、ずっと私たちを見守り続け、そしていつでも仕事から帰ってくる私たちを迎えてくれる存在であり続けてくれたのだ。私は、そんなおばさんの優しさに、たった今気付いたのだった。

「おばさん、ありがとう・・・でも」

「え・・・?」

「ゴメンナサイ」

と、私はスクッと立ち上がり、そして再び1階に降り玄関に向かった。

宿を出ようとする私を、おばさんは慌てて引き止める。

「アンタ、まさか「配達」に行く気じゃないだろうね!?今の体で行ったら、アンタ間違いなく途中で力を使い果たして消えちまうよ!?それでもいいのかい!?」

「かまわないさ。だって僕らは、そのために存在してきたんだから」

戸を開けると、春風が宿の中に吹き、桜の花びらが舞い込んだ。

「行ってきます」


庭には、主人達を待ちくたびれ、春の陽気に眠るトナカイたちがいる。

私は自分のトナカイの腹を軽くトントンと叩いて起こす。眠りを妨げられた彼は、うっとうしそうな顔をし、そして、主人である私の顔を見て、「ようやくか」という感じでゆっくり立ち上がる。

そして私はトナカイの後ろに繋がれたソリに乗り込む。ソリには「配達物」を入れた大きな袋がすでに積んである。私はそれを確認し、そして大きく深呼吸をして、トナカイにムチを入れる。

「行っけえええええ!!」

トナカイはソリを引いて走り出す。徐々に加速がついてくると、ソリはゆっくり地面を離れ、空へと向かっていく。桜吹雪が舞い上がる中を駆けながら、私は己の存在が徐々に消え行くのを感じた。空に昇りきった時、私は残されたありったけの力で「配達物」の入った袋を思いっきり放り投げた。袋の口は開き、中のキレイにラッピングされた「配達物」たちは空中にぶち撒けられる。薄れゆく意識の中、クルクルと回りながら街に降り注いでいく「配達物」を見つめながら、私は、それを待っている子供たちにきっと届くよう、届け、届け、と何度も願った。

だって私は、この世に残された最後のファンタジーなのだから。











・・・「クリスマスに更新する」と予告して早4ヶ月ですか。だから、今回のこの話の内容のように、この物語自体が、まさに僕にとっての、力いっぱい放り投げたクリスマスプレゼントっていう、あの、アレですか。謝った方がいいですか。ハイ、本当にスイマセンでした。


では、次回の縛りはコチラ。

題名が『靴は投げられた』(又吉)

「何やら暗いと思ったら、蛍光灯が切れているじゃないか」という書き出し文で始める(神長)

「文房具セット」を文中に入れる(昆)

縛りを出してもらったのが12月だったんで、題名のネタがだいぶ前の話になっちゃってますね。又吉くん、スベった感じにしちゃってゴメンね。

そういえば、拓司に縛りを聞くのを忘れてました。うーん、どういう感じにしよう。ていうか縛り増えんのか?うわー、キツイよー。現時点ですでにキツイのに。

次回更新目標はGW・・・の終わりくらいで。おい、誰だ今「トガシ」って言ったの。

それではまた次回。


posted by 渡辺 at 02:08| 縛文 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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